常磐線全線開通阻止へ 国分勝之副委員長

「すべての原発いますぐなくそう!全国会議」の月刊誌『NAZEN通信』に掲載された国分勝之副委員長のインタビューを掲載します。


―12月10日に迫る常磐線相馬駅―浜吉田駅間の開通とはどういうことですか。


国分:これによって7月 12日に原ノ町からの乗り入れ再開が強行された小高駅(南相馬市)から仙台駅までが一本につながることになります。

今回の再開は津波で流された区間で、原発事故による避難区域ではないけれど、「2020年東京五輪までの常磐線全線開通」という強烈な政治的意図に貫かれた運行再開であることに変わりはないと考えます。「震災・津波からの復旧」「待ち望まれた運行再開」という一面的な見方を強調したキャンペーンは、結果として帰還と被曝の強制に拍車をかけるものです。

一方で全線開通に向けた線路・施設の復旧工事は既に竜田駅(楢葉町)-小高駅間で着工しています。この区間は楢葉・富岡・大熊・双葉・浪江という原発事故直下・高線量地帯のど真ん中です。しかも相馬―浜吉田間は津波で流された区間だということで駅も線路も内陸に移転したけれど、同じように津波も直撃した富岡駅は元の位置に再建するという。内陸移転では用地買収や工事の都合で2020年に間に合わないと会社は判断したのでしょう。とんでもないダブルスタンダードです。

団体交渉でもJR東日本本社は「福島第一原発は冷温停止状態」「収束に向けての準備が進んでいる」などという認識だけど、現実には原発事故は何も解決していないことは明らかじゃ
ないか。溶け落ちた核燃料がどこにどういう状態であるのかもわかっていない。再臨界の 危険性も十分にある。

「原発はどうなってるんだ?」ということをごまかした議論は例外なく虚構でしかない。現実から目を背け、「復旧・復興」の名のもとに労働者・住民の不安や怒りの声を圧殺して進められる常磐線全線開通や帰還の強制は、まさに「恐るべき虚構」だよね。


―原発の「安全神話」を繰り返しているかのようですね。


国分:JR本社の言うことは本当に異様な楽観主義、欺瞞(ぎまん)に満ちた「ポジティブ思考」だよね。

そもそも原子力災害は、地震や津波と違って被災地に戻れない。無人を強いる点で他の災害と根本的に違うんだよね。放射能は目に見えないし、被曝による病気だってすぐには発症しないものが多いという。福島県立医大のように医療界を抱き込めばいくらでも因果関係を否定してしまえる。「気持ちの問題」に落とし込まれて心理戦を強いられるという面がある。

安倍政権は常磐線全線開通を「核は制御できる」「原子力災害を克服した」という虚構を世界にアピールするためのチャンスだと思っているんじゃないのかな。JRはその手先になっている。その意味でも3・11は終わっていない。闘いは常に現在進行形で「これからどうするか」が問われている。敵が虚構を重ねている以上、我々の怒りの炎は全く消えない。必ず何度でも燃え上がるということです。


―国分副委員長は福島県いわき市の出身で高校卒業まで過ごされたんですよね。


国分:常磐線の現在の不通区間にも、直接運転する機会はなかったけど、趣味の鉄道写真などでしょっちゅう通っていた。知り合いも数多く住んでいました。そういった意味で「故郷になにやってくれるんだ」という怒り、なじみの土地に入れない痛苦の念がある。ずっとそこに住んで働いてきた人ならなおさらだよね。

動労水戸は今年で結成30年を迎えたわけだけど、組合結成前からずっと三里塚闘争を闘う 中で身に染みてつかんだことは、理が通らないことも「国策」として何が何でも押し通そうとする国家権力の横暴さだよね。国鉄分割・民営化の時は自分たちがその当該者として闘ったわけだけど、三里塚闘争の「絶対反対」の思想があったからこそ、闘い抜けたと思うんだ。国家権力に甘えは通用しない、団結しなければ生きていくことすらままならないということだと思う。

そういう闘いの積み重ねと経験があったからこそ、3・11の直後からの被曝労働拒否の闘いをやれたんだと思う。K544という放射能で汚染された列車の検査修繕・再運用を認めるか否かという問題は、「誰かにやらせる」か「誰にもやらせない」かという絶対に折り合いのつかない問題だったわけだからね。


―常磐線の全線開通について、これからの闘いの展望についてどうお考えでしょうか。


国分:まずは我々自身が、安倍政権の原子力政策・核武装政策と真っ向から激突する闘いとして、認識を新たにしなければならないと思う。この国策と真っ向からぶつかって、ここで勝ち切ることがどれだけ社会に影響を与えるのかということです。

「復旧・復興」や東京五輪が喧伝されている一方で、福島では甲状腺がんで苦しんでいる子どもたち、そしてその家族がいるわけだよね。それはもう耐えがたい欺瞞ですよ。常磐線全線開通はその最大の目玉として位置づけられている。常磐線全線開通との闘いは、福島で覆い隠されている虚構を全部ぶっ飛ばす力を持った闘いです。


―被曝労働に直接さらされている、下請企業を含めた膨大な労働者、とくに青年労働者への働きかけと組織化はまったなしですね。

国分:自分は運転職場ですが、青年運転士はこれまでにない労働環境の劣悪化と労働者としての誇りを奪われる攻撃に直面しています。ダイ改のたびにシフトはきつくなるし、千葉で乗務中に用を足した動労千葉組合員が運転士を下ろされて転籍にまで追い込まれたように、何が処分の材料にされるかわからないという極限的なプレッシャーの中で勤務を強いられています。

その上「40 歳までに3年間乗務を下りて駅で働け」というライフサイクル配転がある。挙句の果てにはデタラメな「復興」のために「被曝覚悟で運転しろ」というわけです。怒りは限界に近付いています。問題は俺自身を含めて動労水戸がそういった青年の怒りにもっと通用する組合に変わっていけるかどうかだと思います。

広く被曝労働に携わる労働者の組織化について。「被曝労働は絶対拒否なんだ」って闘う俺たちと、まさに放射能と最前線で格闘している原発・除染労働者が、いろんな形で結合して、未払い賃金をめぐる争議で勝ったり、学習会をやったりなんかしています。一見すると考え方もかみ合わないんじゃない のかとも思えるけど、自分の置かれた状況の中で、労働者としての筋を通して闘い抜くってことで一致団結してるってことが、労働運動の持つ底知れない力と可能性なんじゃないかと思うよね。


―ありがとうございました。


(2016年11月4日)

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プロフィール

HN:
動労水戸
性別:
非公開
職業:
鉄道労働者
自己紹介:
【国鉄水戸動力車労働組合】
1986年結成。JR東日本・JR貨物とその関連会社の労働者で組織する労働組合です。

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