9月6日におきた京急線の踏切事故、読者のみなさんはどんなふうに感じているのでしょうか?
乗務をしている組合員から投稿された意見を載せます。
私は現在、JR東日本の運転士をしています。主に常磐線品川ーいわきを乗務しています。昨日の事故について、今朝のテレビ番組などでは、なぜ電車は止まれなかったのか、電車の運転士はなぜ止められなかったのかという点に着目されてきていますね。
踏切にあのような車両が入り込んだ場合、障害物検知装置(障検)が働いたり、周りで見ている人が非常押しボタン(PB)を扱ったりすると特殊信号発光器(特発)という地上に設置してある非常用信号が赤色の点滅します。
昨日の事故ではこれらの装置は正常に作動していたと言われていますが、なぜ電車が止まらなかったのか。ATSなど自動で止まるようにはなっていないのか。
自動的には止まらないんです。
JR東日本では踏切事故ゼロに向けて、こうした設備はかなり整備されていますが、これと通常の信号機を連動させて赤信号にしたり、この特発動作=非常ブレーキがかかるというしくみにはなっていないのです。
これを自動的に止めるようにすると、誤動作が多くて列車の運行がまともにいかなくなるからです。
現在の電車の運転では、通常の信号機は運転士が仮に見落としても、多くの場合、警音が鳴り、自動的に列車を止める機能になっています。しかし、この特発は運転士の目視のみが頼りです。
この事故にあった運転士はどこから特発が見えていたのか、どこからブレーキかけたのか、今はドラレコや乗務員操作記録装置など調べればすぐ明らかになります。でも問題は、なぜ間に合わなかったのか。
いろいろな要因は考えられます。特発の現示(赤色が点滅している)に気がつくのが遅れたとすれば、他のものを見ていた視界に入らなかった? 駅の近くだったので停車か通過かを時刻表に目を向けていたとか、ホーム上の人が気になって凝視してしまったとか。
運転士は、いったん乗務が始まったら、、線路上にこうした支障物がないか、運転中は常に気を払っていますが、その集中力も限りはあります。また、この集中力を阻害する要因がたくさんあります。
運転士にとって、眠気と生理現象(用便)は大敵です。また、ひとりで黙々と運転すれば考え事もします。なので、運転する際にはできるだけ、こうした集中力の妨げになる要因を排除することが最も大事です。
しかし、現状は、一日に9時間も運転する行路や、朝の8時から夜の12時過ぎまで乗務する行路など、およそ集中力を持続させるのは困難というものもあります。また食事を含む休憩時間が35分しかなくてすぐに乗務となるものや、夜の仮眠する時間が実質4時間もとれないで次の日もたっぷり乗務する行路などが強制されています。
こうした状態では、運転士の注意力が100%の力を発揮することはできません。
京急の事故を私たちJRの運転士もまったく人ごとではないと感じています。
最近、重篤な鉄道事故多いですね。そうした中でも、会社は自動運転だの、無人運転だの、ワンマン運転だの、人間の力や能力に頼らず機械やAIに置き換えようとしています。技術の進歩は否定しません。それが安全の度合いを向上させてきたことも事実です。
だけど、現状、機械やシステムが完全でない以上、労働者の力や能力が必要とされているなら、それが120%発揮できるような労働環境をつくることこそが安全に運転することの必須条件だと思います。
その意味で、JR東日本が進めている乗務員勤務制度改悪ー乗務効率を格段にあげる攻撃(2019年3月から)や、熟練の乗務労働を軽んじるジョブローテーション(2020年4月から)の攻撃には、職場のみんなの力で反対していかなければならないと思います。